Q&A

疑問解決コーナー

Q2.砒素が含まれる表流水を使っている水道の問題は?
地下水のヒ素汚染が問題になっていますが、表流水を使っている水道では問題ないですか?!(質問者:Mr. T.V.)
A2-1.地下水のヒ素汚染は地質に起因し、水中に溶出することが主要な原因ですが、表流水の場合は温泉や鉱山排水等が原因である場合が多いようです。 前塩素処理後、凝集沈殿処理で除去できます。

砒素は微量であっても長時間摂取すると皮膚の角質化、黒皮病、末端神経系の慢性中毒を引き起こします。水源にヒ素が含まれる場合にはまず水源の変更を考え、また、希釈によって基準値以下にする方法もあります。やむを得ずヒ素を含む水源を使う場合には処理方法として凝集沈殿、活性アルミナによる吸着法、ナノろ過、逆浸透などがあります。ヒ素はほとんどが3価または5価の無機ヒ素化合物として存在しています。3価のヒ素除去は5価に比べて難しいですが、前塩素処理を行えば3価は5価になり、凝集沈殿で効果的に除去できます。
しかし、沈殿汚泥にヒ素が含まれるため排泥処分について十分検討する必要があります。
(以上、上水道施設設計指針2000から引用)
日本では札幌市水道局が温泉によるヒ素の混入した水源を使っていますが、凝集沈殿方法でヒ素を水質基準値(0.01mg/L)以下に除去しています。

(回答者:山本 敬子、JICA)

メコン川を利用しているラオス、ビエンチャンでは分析した結果、ヒ素は検出されていない(鵜飼)。同じくメコン川を利用しているカンボジアのプノンペン水道公社では、外部機関による分析によると、ヒ素は基準値を大きく下回っている(鎗内)。

2009年6月29日付け、工藤会員より追加説明がありました。

A2-2. 上の回答で、基本的な間違いはありませんが、追加で説明します。

ヒ素を含んだ原水を浄水処理する場合ですが、この回答について誤解を招くおそれがあると思い、意見を述べさせていただきます。
『日本水道協会の 上水道施設設計指針2000』には、解決コーナーに引用したような表現で記載されており、基本的な間違いはありません。
ただし、浄水処理の凝集沈殿について少し詳しく述べさせていただきますと、3価のヒ素は凝集で除去できず、凝集沈澱で除去できるのは5価のみです。従って、解説にも書かれているように、原水中のヒ素を、凝集沈殿工程前の塩素処理で5価にすることが必須です。
国内の大規模水道事業体のひとつで、実際にヒ素の除去処理をしている例があります。そこの水源には大きな温泉があるため、原水中のヒ素が0.03mg/L(水質基準の3倍)になることがあり、そこの水質の方に処理についてお聞きしました。
ヒ素の原因となっている湧水の湧出時点では3価ヒ素の割合が高いのですが、河川を流下するに従い5価のヒ素に変化し、取水時点ではかなりの部分が5価になっているそうです。塩素処理を行うことにより、ろ過池時点でほぼ全量が5価になっているとのことでした。このようにして出来上がった浄水のヒ素濃度は水質基準内におさまっています。ただし、このようにしてヒ素を除去していますが、水中のヒ素の全量が除去できるわけではなく、凝集効率が悪くなると除去率も低下します。当然、原水中のヒ素濃度が高ければ、残存するヒ素濃度も高くなります。

このようなことから、ヒ素除去に凝集沈澱を用いる場合
①原水のヒ素の形態(3価 or 5価)も含めたモニタリング
②ろ過工程前に塩素処理で5価にすることが必要
③ヒ素濃度の変化、凝集状況の変化に対応するため、ジャーテストなどを用いて凝集剤の注入量とヒ素濃度の関係の把握
等の注意が必要です。

途上国の現状では、ヒ素の測定もむずかしいし、まして形態別の定量はなおさらで、浄水処理も細心の注意を払って行わなければなりません。このような点から、私は「 浄水処理(凝集沈澱)で効率的に除去できる」の表現はふさわしいとは思えませんでした。
はじめに、原水中のヒ素の状況(ヒ素濃度)をきちんと把握することが重要です。
次にその対応方法ですが、水源に使用しないのがベストですが、代替の水源がなければ浄水処理による方法も含めた各種の除去方法を検討します。もちろん、どの方法もコストは大きなファクターの一つになるでしょう。また、その濃度によっては他の水源との希釈なども可能です。

回答者:工藤幸生 (日本水道協会)