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疑問解決コーナー

Q4.浄水場の沈殿池での藻類の影響は?
浄水場の沈殿池に藻類はどのように生息し、処理過程にどのような影響を及ぼすのでしょうか(Ms.T.T.M.T.)
A4.沈殿池には付着藻類と浮遊藻類がいます。また付着藻類の群落の中には小動物が生息する場合もあります。付着藻類の群落が大きく成長して剥離したり、マッドボールの核になってろ過砂表面に沈積しろ過閉塞を起こします。アナベナのような発臭生物は発臭物質を溶出し、ろ過池を通り抜けて市民に不快感をあたえる場合があります。

沈殿池における藻類の発生機構は付着藻類と浮遊藻類に分けて見ることができます。

1. 付着藻類
【発生場所】
前塩を添加していない、もしくは微量の前塩を添加していても沈殿池までは影響していない浄水場に発生する藻類は、主に付着藻類です。付着藻類は壁面に群落を作ったり、糸状となってゆらゆらと棚引いたりするので、湯垢様の汚れと見誤ることがあります。
【水道への影響】
この群落は浄水処理に障害をもたらすものではないので、不快生物(下部を参照)の仲間に入れられます。しかし、この群落が大きく成長して剥離すると、ろ過砂表面に沈積して水流を閉塞したり、マッドボールの核となったりします。 群落が崩解して分散した微細藻類がろ過砂を通過して浄水に漏出することもあります。
【対応】
あまり神経質になることは無いと思いますが、付着藻類が過度に繁殖した場合には沈澱池の水位を30cmほど下げて、消火用ホースでの放水圧で飛散させる対症療法があります。もちろんこの対策を実施する際は、剥離した付着藻類がまとまってろ過地へ流入してろ過地を汚したり、ろ過閉塞を起こす可能性があるので、浄水オペレーターと協議して逆洗水を確保したり、洗浄時間を考慮する必要があります。

2. 浮遊藻類
【発生場所】
大きく余裕のある横流式沈殿池は沈殿処理時間(滞留時間)が時として長すぎてしまう場合があります。しかも、原水が粘土やラテライト質による高濁で凝集沈殿効率が良く、沈殿池流入直後に沈降が完了した場合、沈殿池後半は清澄な水で満たされます。浮遊藻類は原水に生息していますが、高濁による遮光で十分に繁殖できません。その藻類が清澄になった沈殿池で透過する太陽光を受けて、急激に繁殖することがあります。
【水道への影響】
それがアナベナのような発臭生物であったら、その浄水場の生物担当者は袋叩きに遭うでしょう。なぜなら、沈殿池から流出した浮遊発臭生物は沈澱処理水と共に中間塩素の添加を受けます。すると、発臭生物は即死し、その体液(発臭物質、Geosmin等)は沈澱処理水中に溶出します。
【対応】
この発臭物質はろ過池で捕捉吸着できません。つまりろ過処理水中に混入したまま給水栓に直行し、市民に不快な思いをさせてしまいます。このような発生機構が生じてしまった場合、通常粉末活性炭で発臭物質を吸着することが最善の方策ですが、ろ過後ではその粉末活性炭を注入する場所が無いので手の施しようがありません。荒療治になりますが、沈殿池に塩素と活性炭を同時注入したり、沈殿池を空にして塩素剤で消毒したり、沈殿池を遮光する対策がありますが、これらの対策を実施するにはいろいろな困難を生じる可能性があります。


【発生場所】
また、沈殿池の水の表面が油膜や埃に覆われたように見えることがあります。このような場合、その水に手を入れると、緑色の被膜が手に付きます。この緑色の物質は緑藻でCoccomyxaやTetrasporaである場合が多く、細胞の大きさはいずれも5~15μm程度の微細藻類です。 それらは耐塩素性があり増殖速度が大変速いのが特徴です。
【水道への影響】
この藻類は沈殿処理水と共にろ過池に達すると殆ど捕捉されずにろ過池を通過し、配水に漏出してその濁度を高くします。
【対応】
このような状況を確認したら、その対策として沈殿池の水位を上げ、彼らの発生場所である水面近くの停滞水を流出させます。また、後PACを0.5mg/L程度沈澱処理水に注入して、ろ過池のろ過砂表面に凝集剤の被膜を張り、微細藻類を捕捉します。

3.付録、動物類
 【発生場所】
 付着藻類は沈殿池壁面に群落を形成します。その群落の中には多くの種類の藻類、細菌、動物が住む小世界が見られます。その動物の仲間の中で今回注目したいのは線虫類です。彼らは原水中に生息しています。その一部が藻類群落の被膜の中で細菌や有機物残渣を食べ、産卵して繁殖します。そして群落内の生息密度が高くなったり、食物が少なくなると、その群落から水中へ脱出します。また群落が剥離した場合も同じく脱出します。その後彼らは水中を漂い、ろ過池を通過して浄水に現れます。
【水道への影響】
彼らは給水管路内で塩素の接触時間が長くなると順次死亡します。しかし、塩素耐性の強いものは、管路内壁面にできた被膜内で生き残ることもあります。
【対応】
彼らが感染症を媒介するという報告は無いので一安心ですが、彼らが生残しているということは管路内に細菌や有機物がいるということであり、管路が停滞水を生じた場合、塩素消費が通常よりも高くなる傾向があります。


 このように管路内には細菌や動物類が生息しています。これらを総称して管路内生物と呼びます。管路内生物の生態はまだ良く知られていないので、各国が調査をすると多くの知見が得られ、浄水の水質管理や管路の維持管理に役立てることができると思います。


参考:以上の生物はJapan Water Works Association. ”Organisms of Water Supplies in Japan –Photographs and Descriptions-“2000 に掲載されています。

(回答:佐々木慎一、横浜市水道局)

不快生物

人に寄生したり病気の原因にはならないが、人に発見されると不快な気持ちを起こさせる生物群。水道の場合、給水栓から出現する生物はハリガネムシ、線虫類、ワムシ類、ミズダニ類、ユスリカ幼虫等がある。また、浄水処理にろ過閉塞や漏洩等の障害を起こすことはないが、沈殿地の施設内に長くたなびくアオミドロやメロシラ等の付着藻類をいうこともある。人に危害を加える生物は病原虫や衛生害虫という。