Q&A

疑問解決コーナー

無収水率が50%近くありますが、20%くらいまで下げるにはどうすればいいでしょうか。(S.K. Bangladesh)
A

無収水削減対策とは
1)まず水道事業体の上層部が、自分の事業体では無収水率が高く、無収水が水資源やエネルギー、経営に大きな影響を与えていることを認識する必要があります。 私が関わったプロジェクトでは、「私たちの水道公社には地上漏水はない、地下漏水もない」と発言した部長がいました。JICA の専門家チームが漏水箇所を図面に表示、写真を見せても納得しない部長もいました。動画まで見せて地上漏水の多さを納得させ、漏水による水資源の無駄、お金の無駄、エネルギーの無駄を説明し、無収水削減の重要性を納得してもらいました。 2) 無収水削減を実施する体制が整ったら、無収水の内訳を知る必要があります。国際水協会(IWA)による配水量の分析表(表―1)等を使ってで、どこで水が無駄になっているかを理解します。

既設水道施設では、DMA(District Metered Area)を作成し、そのDMA内のベースライン調査を行う必要があります。夜間使用水量の少ない午前2時~午前4時の2時間で夜間最小流入量調査を計測します。この流入水量は損失水量です。この数値を基準にしてどのような削減対策を行うか計画し、作業を進めていきます。水道事業体が浄水場や配水管網で使用する水量(請求されない推定の使用量)、水道メーターによる不感水量、違法接続水量(盗水、未公認使用水量)、地上漏水量、地下漏水量等を精査してゆきます。
水道メーターにつては、日本の場合計量法で±2%の器差(誤差)が認められていますが、途上国では制度化されていない国が多いので協議する必要があります。
違法接続水量(盗水)ですが、メーター検針時、漏水調査時に顧客とコミュニケーションを図り、調査の意義を説明して調査する必要があります。私の経験では職員が違法接続を発見して顧客に説明している時に警察が来て職員が逮捕されたこともあります。高級官僚・大金持ちの家族ほど盗水が多いと聞かされました。
地上漏水を調査する時に、日本では配水管の取り出しから水道メーターまでの給水管を水道局が管理していますが、途上国では給水管からの地上漏水は、顧客が修理するという話を聞くことがあります。水道事業体と顧客の水道施設の管理区分が明らかでない事業体が多いか、あってもそれを理解していない職員が多いのです。
3) 今後、人材育成が重要ではないかと思います。
配水管網の維持管理をする職員を研修等で教えることが必要です。毎月、または2カ月に1回、水道メーターの検針を実施している職員や契約している民間検針員が正確に検針するために、また不正を防ぐためにも人材育成が重要です。 
水道メーターの数字の表示方法にも問題があります。たとえば㎥まで表示、100ℓまで表示、10ℓまで表示など様々です。3種類以上の水道メーターがDMA内に設置されているところがあります。水道メーター の形式の統一化が必要ですが、それぞれの国の事情がありますので、なかなか進みません。
4) 地上漏水、地下漏水調査は給水している時間にやらないと意味がありません。
漏水調査計画書を作成して計画的に漏水調査を実施してる国は少ないです。例えば、2時間給水(午前5時~午前7時)を実施してる事業体では午前10時過ぎに現地調査を実施しても給水していないので、道路面が乾燥して跡形もない状況です。そこで、地上漏水は無いとの発言がでてきます。
地下漏水ですが、漏水調査を実施する機材がない。あっても漏水調査機材の取り扱いが出来ない水道事業体が多く、埃が機材全体に積もっており、ケーブル線のひび割れ、バッテリー交換が出来ない、市販されていない等で使用されていない状況がありました。
5) 適切な資機材の確保と維持管理が重要です。
途上国では、PVC管とかアスベストセメント管を使用していますが、継手からの漏水が多いです。そして、修理しても、しっかり修理していないので、数年後には再度漏水が発生します。インドネシアでは日本の漏水探知機が機材供与されていますが、PDAM(水道公社)の職員から地下漏水を発見することが出来ない、どうしたら発見できるのかとよく質問されます。供与された探知機ではPVC管等の樹脂管の漏水は発見できません。それで、樹脂管に適用した漏水調査機材を使わないと発見できないと説明しています。「漏水調査は、耳の感と経験が重要」と言われています。最近、PVC管(樹脂管)に適応できる機材、アナログとデジタルの表示できる漏水調査機材が開発されていますので、それぞれの国に適応した機材を使い、漏水調査計画書を作成して漏水調査を実施することが重要です。
6) 配水管等の記載された図面がない水道事業体も多いです。図面作成も無収水削減対策では重要です。
配水管の位置や口径、管種、布設年度などの情報が得られないと計画的な漏水対策を立てられません。
7) 無収水率を下げるのに効果があるのは、老朽管の布設替えとその時の配水管・給水管種の選定です。
古い配水管・給水管を使用し続けることは、漏水個所を修理して漏水を止めてもすぐに漏水の復元現象が起こり、無収水削減対策には貢献しない状況になります。漏水を繰り返す老朽管は布設替え費用が高いですが、修繕ごとに掘削、補修又は管の一部取り替え、道路補修という費用を繰り返し使うことを考えると、布設替えで長期的に使用できる給配水管材料を使用することで、漏水発生率の削減を図ることができ、コスト的にもメリットがあると思います。 また、継手部が少ない管種、腐食を防止する工法などは無収水率の削減に大きく寄与します。漏水する可能性を排除することで、安全な水道水を顧客に給水でき、顧客が満足し、更には顧客の増加につながるという大きな改善につながります。
8) 今後、日本でも、途上国でも100年先を計画したLCC (Life Cycle Cost: 生涯費用) について考慮する必要があると思います。
LCCの表を作成して、材料や機材の比較をし、耐用年数の長い配水管・給水管材料を使用することにより、初期費用は高くても、長い目で見れば、安くつくものを選ぶことが重要だと思います。
9) 結論として無収水(NRW)を削減するためには以下の事が必要です。
*無収水の現状の理解・無収水削減担当組織の創設
*配管網図の管理
*DMAで夜間最小流量調査、ステップテストを実施
*メーター管理とメーターの交換
*関係する職員や建設業者の人材育成
漏水探知、修理、管接合の研修
*日常的な資機材の管理
*老朽管の布設替え
*LCCの考慮

回答者 中之薗賢治さん・瀬川進太さん (横浜ウォーター株式会社)