Q&A

疑問解決コーナー

急速砂ろ過池が短時間で閉塞したり、ろ材が度々流出してしまいます。
急速ろ過処理のろ材を選定する場合の留意点や維持管理上の注意点について教えてください。
(Mr. Z.O, ミャンマー)
A

急速ろ過池は比較的コンパクトな施設で多量の水道水を得ることができることから、国内だけでなく海外の水道事業でも多用されています。
凝集用薬品を用いた凝集沈でん処理と組み合わせることで、懸濁物質や耐塩素性原虫類の除去効果をより高めることができるのが特徴です。
我が国の「水道施設の技術的基準(平成12年2月23日厚生省令第15号)」では、急速ろ過池を凝集沈でん処理と共に用いるよう求めています。

ろ過池の閉塞
 ろ過池は様々な理由もしくは事象が原因で閉塞します。まず、流入水に想定以上の懸濁物質が含まれている場合を挙げることができますが、この場合は前段の凝集沈でん処理の効果を向上させることが必須です。また、ろ過池の洗浄が適切でなく、ろ過池で補足された懸濁物質などが完全に排除できない場合も短時間での閉塞の原因になります。ろ過池の洗浄条件を適切に設定することが必要になります。

 ろ過池の閉塞がろ材に起因する場合には、ろ材の粒度が想定よりも小さいことが考えられます。日本ではろ材の粒度は有効径(d10)*と均等係数(d60/d10)*を用いて示すことが一般的ですが、ろ過池にろ材を投入する場合には、ろ材を検査(ふるい分け試験)して想定された粒度であることを確認することが重要です。また、粒度の検査結果が規定通りであっても、有効径以下のきわめて細かいろ材が含まれている場合、例えば最少径が0.3mmを下回るような場合には短時間での閉塞の原因になるとされています。このような細かいろ材は、ろ過池の洗浄後にろ材の表面に集まりやすいので、取り除くことが可能です1)。 ろ材の粒径とろ過速度より多量のろ過水を得る目的で複層ろ過もしくは多層ろ過が用いられています。粒径がより小さく、比重がより大きいろ材を、ろ層の下層から順に積層したもので、比重の小さいアンスラサイトを最上層に用い、その次の下層に砂を用いるのが一般的です。アンスラサイトの粒径は砂に比べて大きく設定されているので、ろ過速度を高く設定することができ、ろ過サイクル毎、即ちろ過を開始してからろ過を終了し、洗浄に移るまでの間により多量の水をろ過することができます。一方で、アンスラサイトは洗浄時にろ過池から流出しやすく、すべて流出させてしまうとろ材の表面が次層の粒径の細かいろ材(例えば砂)になってしまうため、アンスラサイトが上層にある場合より短時間で閉塞することになります。複層ろ過、多層ろ過では最上部のろ材の流出に特に注意する必要があります。ろ材の層厚、粒度を定期的に点検・確認し、予め定めた量以上のろ材が流出した場合には、ろ材を直ちに補充する体制を確立しておくとよいでしょう。ろ層の定期的な点検は単層、複層を問わず、どのタイプのろ過池でも重要です 。

 写真は、元はアンスラサイトと砂が充てんされていた複層ろ過池であったものが、二つのろ材ともほとんど流出し、最下層の砂利が見えるようになってしまったろ過池です。ろ材が流出しながらもろ過池の運転が継続されているのは、上述した複数の理由が絡み合い、かつろ過池の維持管理体制が確立されていないことに起因していると推定されます。
 より粗い粒径のろ材を使用すれば、ろ過継続時間をより長くする(処理水をより多く得る)ことが可能です。当然ながら細かい懸濁物質を補足しにくくなり、ろ過処理の効果は低下することになりますが、その低下を補う方策として、ろ層の厚み(L)
を大きくする方法があります。この関係はろ層の厚みに対するろ材の粒径の比(L/d)
として、砂ろ過処理に必要な数値が複数提案されています。提案されているL/dの数値が異なるのは、提案されたそれぞれの式で、粒径(d)
に異なった指標が用いられているからです。詳しくは参考文献1) - 6) など
を参照していただければよいと思いますが、概ね、有効径の1000倍以上の層厚(有効径が0.6mmの場合の層厚は60cm以上)が必要と言えるでしょう。

ろ材の流出
 洗浄条件が適切でない(過大)場合は、ろ材がろ過池から流出する原因になりますが、洗浄条件が設計通りであっても、投入したろ材が小さすぎる場合は流出してしまうことになります。このようなケースでも、ろ材を検査して粒度を確認しておくことが重要です。日本のろ材に関する基準は、ろ材から溶出する物質の基準が前述の「水道施設の技術的基準」に定められています。
また、ろ材の物性的な規格並びに試験方法として、日本水道協会規格(JWWA A 103:2006-2 水道用濾材)があります。
急速ろ過池では、ろ材(粒度、比重)と洗浄条件(特に逆洗速度)が極めて微妙な関係を有しており、この関係を適切に保つことができれば、適切なろ過機能を継続することが可能です。浄水場の運転に携わる責任者の方々に、この点を理解していただくことが望まれます。

*d10、d60は、ろ材ふるい分け試験における10%通過径、60%通過径を示す。

参考文献 水道施設設計指針(2012年版)、pp.215-217、
日本水道協会、(2012)
2) Water Quality and Treatment, p.8,20, McGraw-Hill INC., (1999)
3) 浄水場の総合設計、pp.180-182、日本水道協会、(1995)
4) 藤田賢二、急速濾過池のろ材層厚と粒径に関する考察、水道協会雑誌、No.485, pp.2-14, (1975)
5) Filtration + Separation. Com; http://www.filtsep.com/view/29675/granular-filter-media-evaluating-filter-bed-depth-to-grain-size-ratio/
6) Filter Operations and Performance, Marvin Gnagy, Ohio Section AWWA SDWA Seminar, November 4, 2013, p.19; http://www.oawwa.org/SDWA%20Presentations/2013/Filter%20Operations%20and%20Performance%20SDWA.pdf

回答者:寺嶋 勝彦さん  (株)東京設計事務所 (元大阪市水道局)